November 12, 2004

津野裕子の短編と西島大介の長編

岡崎作品じゃないけど、ちょっと関係のある(ありそうな)作品を続けて読んだのでメモ。

津野裕子の『デリシャス』を古本で読んだ。1988年青林堂刊。
『冷蔵庫』はその中の6ページの短編。
捨てられた冷蔵庫の中に閉じ込められて7才の少女が死んだ。それから10年後、死んだ彼女は冷蔵庫の姿で妹の前にあらわれる…
津野裕子の作品は夢の論理で進むので要約がとても難しいですが、乱暴にいえば"死と乙女"のお話です。
で、この作品で、死んだ姉が20才くらいに成長した姿で、白いワンピース着て冷蔵庫の中から登場するシーンがあるんですね。
これは岡崎京子の『冷蔵庫女』(『恋とはどんなものかしら』[マガジンハウス刊]所収)の元ネタのひとつなんじゃなかろーか。岡崎『冷蔵庫女』は死神(?)だけど、津野『冷蔵庫』の彼女も冥界(?)から出てくるし。

西島大介の『凹村戦争』(早川書房)を読んだ。こちらは今年の青雲賞受賞作の長編。
『凹村戦争』は様々な先行作品を下敷きにした、仕掛けに満ちた作品ですが、大きなネタの一つとして『リバーズ・エッジ』がある。
『リバーズ・エッジ』での河原が村はずれの草むらで、死体のかわりに天から降ってきた"物体X"がある。終盤手前では、『リバーズ・エッジ』がギブスンの詩を挿入したのとまったく同じやりかたでBlurのThe Universalの訳詞を挿入している。
しかし『凹村戦争』、いい作品なんだけど、うまくでき過ぎて優等生の模範解答を読んでるような気もしてくるのが悩ましい。作品内の仕掛けは楽しめるんだけど。どうも"セカイ系"以降のマンガ・アニメってうまくノれないんだよなあ。世代の差ですか。うーむ。

岡崎作品のネタ(かもしれない)作品と、岡崎作品をネタにした作品を最近読んだというお話でした。

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October 27, 2004

さようならの夏

「TAKE IT EASY」(スコラ,88)所収

高校生の女の子の、夏休みの初体験の物語。

青年誌の漫画アクションに掲載された作品。それなりの出来だけど、青年誌向けに"いかにも"な女子高生体験ストーリーを描きました、という感じも伺える。
"お父さんとお母さんに初めてウソと秘密/友達にも内緒"
というネームが入ったコマの下に"スゴイネームざんすう"という手書きのコメントがあるんだけど、これはその"いかにも"な部分に対する照れのあらわれでしょうか。

個人的にはこの作品の最後の花火が高野文子の短編「玄関」のラストのソーダのスパークリングの印象と重なるのだけど、ちょっと無理があるかもしれない。
日焼けした肌、明るい女の子と鬱屈を隠した女の子の対比、夏の海の遠い印象…と重なる要素はあるんだけども。
高野文子「玄関」は「水の中の小さな太陽」にも影響を与えてるんでは…と個人的には思ってます。

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ハワイ・アラスカ

「TAKE IT EASY」(スコラ,88)所収

高校生の女の子。BFが出来て最初の夏休みが明日から始まる、2学期最後の日。
学校の帰り道、彼と彼女は行きたい場所についてあれこれ話す。彼女はハワイに行きたいという。彼はアラスカに行きたいという。

高校生のカップルの姿を描く短いスケッチ。
思いはチグハグながら50円の棒付きアイスで和解する高校生のカップルは、しあわせそうでうらやましい。

たわいない話。ただ、ハワイやアラスカといった"ここではないどこか別の場所"から恋人たちの距離を測る、という構図は、岡崎作品では繰り返されるモチーフの一つだと思う。たとえば「東京の灯よありがとう」での東京。「PINK」で夢想される南の島。「ロシアの山」では遠くの火事のイメージ、そしてタイトルが象徴的に"別の場所"を指している…という具合に。

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ローマン・ホリデイズ

「TAKE IT EASY」(スコラ,88)所収

「TAKE IT EASY」単行本化に際して描かれた短編。
結婚式の前日に髪を短く切った山岸由美留は、休日の一日、二人の元・恋人(弥七と大久保田)と一緒に動物園でデートする。

「TAKE IT EASY」が男の子のモラトリアムを描いた作品であるのに対して「ローマン・ホリデイズ」はある意味で女の子のモラトリアムの終わりを描いた作品だ。そう考えると番外編として描かれるのは自然なのだけど、しかしこの短編の空気は、いかにも青年誌的なユルめの中編の「TAKE IT EASY」とまったく違う。なにかはりつめた気配がある。

動物園で由美留が語る、次の台詞の印象は強烈。


あたし そこらの
おばあちゃんも
ガキもキリンも
道歩いていくイヌネコも
ペンペン草も好き

--みんな好きなんだね

そう
そして同時に大嫌いよ

みんな大嫌いよ
死んじゃえばいいんだわ


この台詞の強さはまったく岡崎作品独自のものだと思う。

ローマン・ホリデイズというタイトルはもちろん映画『ローマの休日』(Roman Holiday)からだけれど、ホリデイズと複数形になってるところがちょっと気になる。
この短編が描くのはある休日の一日だ。それは長く続いた休暇の日々の最後の一日、The End of Roman Holidaysなのかもしれない。

いや逆かもしれない。映画『ローマの休日』は王女が一日だけ女の子になる話だったけど、この短編での由美留はちょうど逆に、一日だけ二人の元恋人の上に君臨する王女を演じている。反転された『ローマの休日』の構図をこの短編に見ることもできる。
とすれば、Roman Holidaysはむしろ由美留の結婚後の日々を指すかもしれない。

いずれにせよ由美留は、"…そしてお姫さまは王子様と結婚して末永く幸せに暮らしました"という女の子のロマンが既に死んでいることを知っている。
ローマの休日の終わりはロマンの終わりでもある。

先に引用した台詞の後で、由美留はややうつろな目をした、うつむきがちの表情を見せる。この表情は他の岡崎作品の中でも見かけたことのある表情だ。この表情は、岡崎作品の大きな主題の一つに触れているのではないだろうかと思う。彼女たちは、自分のいる物語の"外"をまなざしているように感じる。

この表情は金子国義の描く女性がたまに見せる表情に似ているとも思う。
というわけでちょっと並べてみました。どうでしょ。

岡崎作品からの抜粋+金子国義

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TAKE IT EASY

「TAKE IT EASY」(スコラ,88)所収

浪人中の受験生・弥七くんの日々を描く中編。
弥七は東京の下町のそば屋の息子。向かいの床屋には幼なじみの千代子。同級生で現役で早稲田に合格した大久保田は何故か弥七をライバル視してちょっかいをかけてくる。出前先の色っぽいお姉さんは弥七にコナかけてくるけど、バックに恐いお兄さんが…
何かとにぎやかな弥七の周辺だが、肝心の受験勉強はさっぱり進まない。弥七の明日はどっちだ?

ストーリー的にはこの作者らしい所はあまり無く、連載された青年誌(コミックバーガー'86.11~'87.3)にあわせたお仕事という感じだけれど、まあ気軽に楽しく読めます。

出てくる登場人物が、みんな自営業の家庭のお子さんたち。サラリーマン家庭はいない。
・弥七→ソバ屋の息子
・千代子→床屋の娘
・弥七の友人のトモジ→酒屋の息子
・大久保田→レストランの息子
商店街の2代目・3代目の、ドラ息子/娘たちのドラマ。
作者が床屋さんの娘であることを考えると、ここに描かれた下町の商店街の空気は作者が日常的に触れていたものではなかろーかとも思う。

新装版が出た時のあとがきによると、このマンガを描いていた頃は仕事場はまだ実家の床屋の二階で、近所の知り合いに手伝ってもらいながら描いていたという。つまり商店街的空気の中で商店街の子女によって描かれた商店街青春マンガといえる…かな?

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August 03, 2004

ふー

やっと四冊分。

この企画でブログを利用したのは、ある程度構築性があって(記事別に固定リンクを貼れるし)、気軽にとりかかれそうだったから…ですが、ちょっと異質な使い方かもしれない。まあWeb日記用のシステムだしね。

しかしココログちょっと重いな。仕方ないのかな。

四冊書いたけど、スタンスというやつがまだちょっと定まらない。
レビューって難しいですね。あらためてtachさんイケダさんの作業はえらいもんだったんだなと思った。

基本的に素朴な感想メモではあるんだが、それでもなにがしかの言葉にするには手がかりか足場、できればその両方、が必要なのだな。手がかりはあっても足場がなかなか見つからない…

さぐりさぐり、おそるおそる…暗い部屋の中を歩く泥棒の足取りで書いてます。そのうち上からタライが落ちてきそうだ。

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"超能力少女A(仮名)"、続"超能力少女A(仮名)"

「退屈が大好き」(河出書房新社'86)所収

・"超能力少女A(仮名)"
テレビの超能力番組を見終わったところに、超能力少女A子(仮名)がトップスのケーキもって現れた!
…BFが不能なんです、という相談をしに。

・続"超能力少女A(仮名)"
マンガ家が原稿にちんこの絵を描いていたら、またまた超能力少女A子(仮名)が現れた!
…いまだにBFは不能だそうです。

要約すると"勃つのって不思議。ほとんど超常現象"って事になりそうなお話ですが。
テレビでED治療のCMが流れる昨今ですが、A子さんの彼氏はもう治ったでしょうか。最近は環境ホルモンやらストレスやらで、男性性ってヤツはますます危機にさらされてますが…

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処女(ヲトメ)の祈り

「退屈が大好き」(河出書房新社'86)所収

留璃子お嬢様はお年頃。
"ばあや わらわもセックスなどしたひのじゃ"
背景にバラの花しょいつつそんな事をおっしゃる。

やがて留璃子お嬢様16歳のバースディパーティーに招かれた素敵な殿方達は、寝室で眠り姫のふりをしている留璃子お嬢様と次々にまぐわうのでありました。

お妃選びの舞踏会なんつっても要するに王子様のサカる相手を探すってことよねー
とか
白雪姫のマクには7つの小さな穴が開いていたらしいよ
とか、
おとぎ話をぶっちゃけるとエロ話になりがちなわけですがこの短編もそんな感じの小ネタ。
まだちょっと作者が若いと言うか青いというか、エロ話が出来る事自体が面白くてしょーがない年頃の作品、と言う感じがしますねコレは。

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N・W危機一髪

「退屈が大好き」(河出書房新社'86)所収

"ともかくカリアゲ的な時代は終わったのだと思おう"

ニューウェーブの終わりや最近の雑誌についてのつぶやき。

各々一ページのマンガコラム。

岡崎さんはこの手のいかにも気軽なコラムというか、埋め草的な仕事が多いですね。かなり後になってもやっている。
マンガというのがもともとそうなりやすいのに加えて、多分女の子マンガ家というのは(少女マンガ誌以外では)そういう役割を期待されがちな気がする。
とはいえ別に腐る事もなく、むしろ楽しげにこういう埋め草な作品を描いてる感じはさすがです。いやほんとに楽しかったかどうかはわからんが。

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どてらいわしら

「退屈が大好き」(河出書房新社'86)所収

東京のバーゲンを荒らしバッタ屋に精を出すなぞの二人組ジョン&メリー。彼等の真の目的は何か。
そしてDCブランドの大物がジョン&メリーを討つべく闇に放った刺客、青竜と紅牡丹。ジョン&メリーを追う彼等が、和歌山県某所で目にした驚くべき光景とは…

これはブランドと言う虚構の差異の生成によって自らを駆動する資本主義システムへの内側からのテロルを描いた作品なのかもしれん。
…てなことはなくて、非常に雑誌の埋め草チックな6ページの冗談作品。
ジョン&メリーのバッタ屋活動はオシャレさんというより秋葉原系マニアのそれに近い。オシャレは好きなんだけどお高くとまってる連中は嫌いという事ですか。

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